春秋時代123 東周簡王(五) 晋景公の死 前581年

今回は東周簡王五年です。


簡王五年
581年 庚辰
 
[] 春、晋景公が大夫・糴茷を楚に送りました。前年、楚の大宰・子商が晋を訪問したことへの答礼です。
 
[] 衛定公の弟・子叔黒背が鄭を攻撃しました。晋の命による戦いです。
 
[] 鄭の公子・班(子如)が叔申の謀(前年参照)に同意しました。
三月、公子・班が公子・繻(鄭襄公の子。成公の庶兄)を国君に立てました。
 
[] 夏四月、魯成公が郊祭を行うかどうかを五回卜い、結局、郊祭を行いませんでした。
 
[] 鄭が新君・繻を殺し、髠頑(または「髠原」「惲」。成公の太子。後の僖公)を立てました(これは『春秋左氏伝』の記述です。『史記・鄭世家』は成公が帰国する時に新君・繻を殺したとしており、髠頑には触れていません)。公子・班は許に奔ります。
 
晋の欒書(欒武子)が言いました「鄭人が新たに国君を立てた。我々が捕えた者(鄭成公)は普通の人に過ぎない。鄭を討伐してその君を還し、講和するべきだろう。」
 
この頃、晋景公が病に倒れました。
五月、晋が太子・州蒲(または「州満」「寿曼」)を国君に立て、魯成公・斉霊公・宋共公・衛定公・曹宣公を集めて鄭を討伐しました。即位した州蒲は厲公といいます。
鄭の子罕(公子・喜。穆公の子)は襄鐘(襄公廟の鐘)を晋に送って講和を求めました。
 
鄭の子然(穆公の子)が脩沢(鄭地)で晋と盟を結び、子駟(公子・騑。穆公の子)が人質として晋に送られました。
辛巳(十一日)、鄭成公が帰国しました。
 
[] 前年、魯から宋に嫁いだ伯姫のために、斉が媵(新婦に従って共に嫁ぐ女性)を送りました。
これ以前に衛と晋も媵を送りました。これは魯と同姓(姫姓)だったからです。斉は異姓(姜姓)なので、本来、媵を送る立場にはありませんでした。
 
[] 晋景公が夢で大厲(悪鬼。趙氏の先祖)を見ました。その髪は乱れて地についています。大厲は胸を叩いて跳びはねながら「汝はわしの子孫を殺した!不義である!わしは帝(天帝)に報復の許しを得た!」と言うと、宮殿の大門と寝門を破壊して侵入してきました。景公は恐れて内室(寝室の奥の部屋)に逃げましたが、戸が壊されます。
公は目が覚めてから桑田の巫を呼びました。巫は景公が見た夢と同じの内容を語ります。景公が夢の意味を問うと、巫は「新麦を食べることができないでしょう」と言いました。
 
景公の病が重くなったため、秦から医者を招くことにしました。秦桓公は医・緩(緩は医者の名)を送ります。医者が到着する前に景公は夢で二人の豎子童子を見ました。病の化身です。一人が「彼は良医だ。我々を傷つけるだろう。どこに逃げようか」と言うと、もう一人はこう言いました「我々は肓の上、膏の下にいる。彼にもどうすることはできないだろう。」
やがて緩が到着し、景公を診て言いました「病を治すことはできません。既に肓の上、膏の下に居り、鍼灸も薬も使えません。」
景公は「良医である」と言うと、厚くもてなして帰らせました。
この故事から「病入膏肓(病、膏肓に入る)」という成語ができました。膏は古代の医学で心臓の下に位置するといわれた脂肪、肓は心臓と隔膜の間です。病が深く侵入し、既に手がつけられない状態を表します。
 
六月丙午(初六日)、景公が新麦を食べたいと思い、甸人(食物を管理する官)に新麦を献上させました。饋人(諸侯の飲食を管理する官)が早速料理します。
景公は桑田の巫を招き、調理された新麦を見せると、「新麦を食べることができない」という予言がはずれたことを謗って処刑しました。
しかし景公が新麦を食べようとした時、突然腹が張りました。景公は慌てて厠に入りましたが、足を踏み外し、下に落ちて死んでしまいました。結局、新麦は一口も食べていません。
この日の朝、小臣(宦官)が景公を背負って天に登る夢を見ました。正午、小官が景公を背負って厠から出てきたため、小官も殺されて殉葬されました。
 
[] 鄭成公が不在中に国君を立てた者を処刑しました。
戊申(初八日)、叔申と叔禽(叔申の弟)が殺されました。
 
[] 秋七月、魯成公が晋に行きました。晋は魯が楚と通じていると疑っています。
この時、晋が楚に派遣した糴茷がまだ帰国していなかったため、楚の状況が把握できていませんでした。そこで晋は疑いのある魯成公の帰国を許可せず、景公の葬儀に参加させました。
 
冬、晋景公が埋蔵されました。魯成公以外の諸侯が参加していなかったため、魯人はこのことを屈辱としました。魯の史書である『春秋』は魯成公が葬送したことを書いていません。屈辱として隠した(「諱」といいます)ためです(『春秋左氏伝』には記述があります)
 
 
 
次回に続きます。

春秋時代124 東周簡王(六) 第一次弭兵の会 前580~579年