春秋時代153 東周霊王(十六) 子罕と玉 前558年

今回は東周霊王十四年です。
 
霊王十四年
558年 癸卯
 
[] 春、宋平公が向戌を魯に送って聘問しました。過去の盟約を確認するためです。
向戌が魯の仲孫蔑(孟献子)に会った時、その家屋が豪華すぎることを指摘して言いました「子(あなた)には令聞(名声)があるのに、屋敷が豪華すぎます。これは人々が求めていることではないでしょう。」
仲孫蔑が答えました「私が晋にいる間に、兄が建てたのです。取り壊すにもまた労力を必要とすることになりますし、兄を非難することもできません。」
 
二月己亥(十一日)、魯が向戌と劉(魯都・曲阜附近)で盟しました。
 
[] 周の劉夏(定公)が斉に行き、王后を迎えました。天子の后を迎えに行くのは卿と決まっていたため、卿ではない劉夏(大夫、または士)を派遣したことは非礼とされました。
 
[] 楚の公子・午が令尹に、公子・罷戎が右尹に、蔿子馮艾獵の子。艾獵は孫叔敖の兄)が大司馬に、公子・橐師が右司馬に、公子・成が左司馬に、屈到が莫敖に、公子・追舒が箴尹に、屈蕩が連尹に、養由基が宮厩尹になり、楚国を安定させました。
 
[] 鄭で尉氏と司氏が乱を起こした時(東周霊王九年・前563年)、余党は宋に逃げました。鄭は子西、伯有、子産(三人の父は尉氏と司氏に殺されました)のために、宋に馬四十乗(百六十頭)と師茷、師慧(楽師)を贈って余党の返還を求めます。
三月、鄭が公孫黒(子駟の子。子晳)を人質として宋に送りました。
宋の司城・子罕は宋から亡命していた堵女父、尉翩、司斉を鄭に送り返します。しかし司臣だけは賢人として名声があったため、子罕は魯の季孫宿(季武子)に司臣の保護を求めました。季孫宿は司臣を卞に住ませます。
鄭は帰国した三人を処刑しました。
 
師慧が宋の朝廷で小便をしようとしました。相(盲人を助ける人。楽師の慧は盲人です)が「ここは朝廷です」と言って止めると、慧は「誰もいない」と言いました。
相が言いました「朝廷です。誰もいないはずがありません。」
慧が答えました「ここには誰もいない。もしも人(賢人)がいるのなら、千乗の相(一国の相。鄭の子産等)が淫楽の矇(盲目の楽師)を使って罪人と交換させるはずがない(賄賂を受け取らなければ罪人を返さないのは、宋に賢人がいないからだ)。」
これを聞いた子罕は宋平公に進言して師慧を帰国させました。
 
[] 夏、斉霊公が晋の同盟国・魯の北境を侵しました。斉が晋に二心を抱いたためです(前年参照)
斉軍は成(郕)を包囲しました。
魯襄公は成を援けるため、遇(魯地)に至りました。
 
季孫宿と叔孫豹が軍を率いて成郛(外城)を築きました。
 
[] 秋八月丁巳(楊伯峻の『春秋左伝注』によると、丁巳は七月朔なので、恐らく「八月」ではなく「七月」初一日の誤りです)、日食がありました。
 
[] 邾が魯の南境を攻撃しました。
魯は晋に急を告げます。晋は諸侯を集めて邾と莒(前年、魯を攻めました)を討伐しようとしましたが、悼公が病に倒れたため中止しました。
 
[] 冬十一月癸亥(初九日)、晋悼公が在位十六年で死にました(悼公の元年を厲公が死んだ年にするか翌年にするかで在位年数が異なります。『史記』の世家と年表は在位年数を十五年としています)。悼公は十四歳で即位したので、まだ三十歳でした。
悼公の子・彪が立ちました。これを平公といいます。

史記・晋世家』には「悼公師曠に治国について尋ねた時、師曠が『ただ仁義とするだけです』と答えた」という記述があります。これがいつの事かははっきりしません。前年、悼公と師曠が衛君の出奔について語りました。あるいはその時の事かもしれません。
 
[] 鄭の卿・公孫夏(子西)が晋を弔問し、子蟜(公孫蠆)が悼公を送葬しました。
 
[] 宋のある人が玉を得たため、子罕に献上しましたが、子罕は受け取りませんでした。
玉を献上しに来た者が言いました「この玉を玉人(玉を加工する工匠)に見せたところ、玉人は宝物だと認めました。だから献上するのです。」
子罕が言いました「わしは貪婪ではないことを宝だと思っている。汝は玉を宝だと思っている。もしも玉をわしに譲ったら、双方が宝を失うことになる。それぞれが自分の宝を守ればいい。」
玉を献上しに来た者が稽首して言いました「小人は璧を持って故郷に帰ることができません(必ず途中で襲われてしまいます)。これを受け取って、死から逃れさせてください。」
そこで、子罕は玉を受け取ると、玉人に加工を命じて売り出し、そこから得た富を玉を献上した者に与えて故郷に帰らせました。
 
[十一] 十二月、鄭が堵狗の妻を奪いました。堵狗は三月に処刑した堵女父の一族です。その妻は晋の范氏の出身でした。鄭は堵狗が范氏と結んで謀反することを恐れ、その妻を奪って晋に帰らせました。
 
 
 
次回に続きます。