春秋時代220 東周景王(四十二) 晋公室の衰え 前526年(2)

今回は東周景王十九年の続きです。
 
[四(続き)] 夏四月、鄭の六卿が韓起を送り、郊外で宴を開きました。
韓起が言いました「二三君子の賦をお聞きできれば、鄭の志(心)を知ることができます。」
まず子(子皮の子・嬰斉)が『野有蔓草詩経・鄭風)』を賦しました。「あなたにめぐり会うことができて、私の願いがかなえられた(邂逅相遇,適我願兮)」という句があります。
韓起が言いました「孺子(あなた。父の子皮が三年前に死んだばかりで喪中のため、「孺子」とよびました。未成年という意味ではありません)は素晴らしい(善哉)!私にも望ができた(鄭とは長く友好関係を保てそうだ。原文は「我有望矣」です。「あなたに会うのは私の望みでもあった」という意味かもしれません)。」
子産が『羔裘(鄭風)』を賦しました。「彼の地の君子は、国のために命を棄てて変わることがない(彼其之子,舍命不渝)」「国の美士である(邦之彦兮)」等の句があり、韓起を褒め称えています。
韓起が恭しく「起(私)には荷が重いことです」と言いました。
子太叔が『褰裳(鄭風)』を賦しました。男女の恋愛を歌った詩で、「あなたが私を想うなら、私は服の裾を上げて溱水を渡ります(子恵思我,褰裳渉溱)」という句があります。「韓起が鄭を想うなら、鄭は晋に従います」という意味です。
韓起が言いました「起がここにいる限り(韓起が晋で政治を行っている限り)、子(あなた)を他者に仕えさせることはありません。」
子太叔が拝礼すると、韓起が再び言いました「子(あなた)の言(詩)は素晴らしい。もしも子の言がなかったら、いい終わりを迎えることはできなかったでしょう(あなたのおかげで鄭との友好を約束できました)。」
子游(駟帯の子・駟偃)が『風雨(鄭風)』を賦しました。「君子に会うことができました。満足しないはずがありません(既見君子,云胡不夷)」等の句があります。
子旗(公孫段の子・豊施)が『有女同車(鄭風)』を賦しました。「容貌は美しく、態度は優雅だ(洵美且都)」等の句があり、韓起を称賛しています。
子柳(印段の子・殷癸)が『蘀兮』を賦しました。「あなたに和して歌います(倡予和女)」という句があります。
韓起が喜んで言いました「鄭は栄えるでしょう。二三君子は君命(鄭国君の名義)によって起に福を与えました。賦が鄭志(鄭の詩。全て『鄭風』からの引用です)を出ないのは、全て和親を示しています。二三君子は代々主(卿大夫)となり、恐れることはないでしょう。」
韓起は六卿に馬を与え、『我将(周頌)』を賦しました。「私は朝から夜まで尽力し、天威を恐れて、天下(小国)を守る(我其夙夜,畏天之威,于時之)」とあります。
子産が拝礼し、五卿にも拝礼させて言いました「吾子(あなた)は乱を鎮めています。その徳を拝さないわけにはいきません。」
 
その後、韓起は単独で子産に会い、玉と馬を贈って言いました「子(あなた)は起(私)に玉を棄てさせました。子の言は私にとって玉であり、死から逃れることができました。薄礼による拝謝をお受け取りください。」

以上は『春秋左氏伝(昭公十六年)』の記述です。『史記・鄭世家』では、産が韓宣子にこう言っています「政ず徳によって行わなければなりません。何によってつのか、忘れてはなりません。」

[] 夏、魯昭公がやっと晋から帰りました。
 
昭公に従っていた子服回(子服昭。子服恵伯・孟椒の子)が季孫意如(平子)に言いました「晋の公室は衰えるはずです。国君は幼弱で、六卿は強く奢傲(奢侈)です。やがてこれが習慣となり、習慣は常態になります。これで公室が衰えないはずがありません。」
季孫意如は「汝はまだ幼い。国の事が分かるはずがない」と言いました。
 
[] 秋八月己亥(二十日)、晋昭公が在位六年で死に、子の去疾が立ちました。これを頃公といいます。
史記・晋世家』には「六卿が強くなり、公室が衰える」とあります。六卿とは韓・趙・魏・范・中行と智氏を指します。
 
[] 九月、魯が大雩(雨乞いの儀式)を行いました。旱があったためです。
 
[] 鄭も大旱に襲われました。
屠撃、祝款、豎柎(三人とも鄭の大夫)が桑山の樹木を伐って祭祀を行いました。しかしやはり雨は降りません。
子産が言いました「山に対して祭祀を行ったら、山林を守らなければならない。それなのに樹木を伐ったのだから、罪が大きくなって当然だ。」
鄭は三人の官位と封邑を剥奪しました。
 
[] 魯の季孫意如(季平子)が晋に入りました。
冬十月、晋昭公が埋葬されました。季孫意如も出席します。
晋の様子を季孫意如が言いました「子服回の言った通りだ。子服氏には賢子が現れた。」

[] 『竹書紀年』(古本・今本)によると、この年冬十二月、桃と杏が花を咲かせました。桃も杏も本来は春に花が咲きます。
 
 
 
次回に続きます。