西周時代 箕子の『鴻範九等』(後)
箕子による「鴻範九等」の解説の続きです。
箕子の話が続いています。
「三徳とは、一は正直、二は剛克(剛によって勝つこと)、三曰は柔克(柔によって勝つこと)です。世が平穏安康なら正直によって治めます(または「世が平穏安康なら人の曲直が正されます」。原文「平康正直」)。世が強硬で従わなければ、剛によって抑えます(彊不友剛克)。従順で友好的なら柔和な態度で接します(内友柔克)。沈漸(沈潜。陰謀をもつ者。賊臣)は剛で抑え、高明な君子は柔によって懐柔します(高明柔克)。辟(国君)だけが福(爵禄)を作り、辟だけが威(刑罰)を用い、辟だけが玉食(宝玉・美食)を得ることができます。臣には福・威・玉食の権利がありません。もし臣が福・威・玉食の権利を持ったら、家を害して国に凶をもたらし、人(官員)は正道を倒して頗辟(不正)となり、民も僭忒(上を侵す過ち)をなすようになります。
稽疑(疑難について考えること)の際には、卜筮(卜占)の人を選んで立てる必要があります。卜筮を命じたら、『雨』『済』『涕(または「圛」)』『霧(または「洟」「被」)』『克』『貞』『悔』という七つの卦のどれかが出ます(それぞれの解説は省略します)。前の五種類は卜(亀の卜)、後の二種類は占(筮の占)で使い、衍貣(卜占の結果を検証して吉凶を導き出すこと)します。卜筮ができる人を選び、三人が占ったら二人の言に従います。あなたが何かに対して大疑を抱いたら、まずはあなたの心と謀り(自分でよく考え)、卿士と謀り、庶人と謀り、最後に卜筮と謀ります(先によく考え、周りの人と相談し、それでも解決できなかったら卜占を行います)。ある意見にあなたが従い(賛成し)、亀(卜)が従い、筮(占)が従い、卿士が従い、庶民が従うことを大同といいます。このような時には身が康強となり、子孫も吉にめぐり会えます(帝王の意志や行動が大衆の願いに反していないので後世まで吉を残すことができます)。あなたが従い、亀が従い、筮が従っているのに、卿士が逆とし(反対し)、庶民も逆としたとしても、それは吉です。卿士が従い、亀が従い、筮が従っているのに、あなたが逆とし、庶民が逆としたとしても、それは吉です。庶民が従い、亀が従い、筮が従っているのに、あなたが逆とし、卿士が逆としたとしても、それは吉です(これら三つの場合は従う者が多いので吉です)。あなたが従い、亀が従っているのに、筮が逆とし、卿士が逆とし、庶民も逆としたら、内においては吉ですが、外においては凶になります(あなたに反対する者が多いので、内で行うのなら吉ですが、外で行ったら凶になります)。亀筮が人の意見と違う場合は、静ならば吉、用ならば凶となります(人の意見が一致しても亀筮の結果が同じでなければ、行動しなければ難がありませんが、行動したら凶となります)。
庶徵(様々な兆候)には『雨(物を潤します)』『陽(物を乾かします)』『奥(または「煖」。物を成長させます)』『寒(物を完成させます)』『風(物を動かします)』があり、これら五者には時(時期。時宜)があるといわれています。五者が秩序を持って順に備わるので、庶草(百草)が繁茂します。一つが備わりすぎたら(多すぎたら)凶となり、一つが亡びすぎても(少なすぎても)凶となります。休徵(美徴。美しい兆候)には『粛(国君が恭敬であること)』があり、時に応じて雨が降ります。また、『治(国君の政治が正しく行われていること)』があり、時に応じて暘(太陽が現れること)となります。また、『知(国君が英明なこと)』があり、時に応じて奥(暖かくなること)となります。また、『謀(国君が深謀遠慮であること)』があり、時に応じて寒くなります。また、『聖(国君が道理に通じていること)』があり、時に応じて風が吹きます。咎徵(凶徴)には『狂(国君の行動が狂妄であること)』があり、常に雨が降ります。また、『僭(国君の行動が度を越えていること)』があり、常に暘となります。また、『舒(国君が安楽に浸ること)』があり、常に奧となります。また、『急(国君が性急なこと)』があり、常に寒くなります。また、『霧(国君が愚昧なこと)』があり、常に風が吹きます。王に眚(過失)があれば影響は歳(一年)に及び、卿士に眚があれば影響は月に及び、師尹(官吏)に眚があれば影響は日に及びます。歳月日の関係が変わらなければ百穀が実り、政治が明らかになり、畯民(賢人)が顕彰され、家(国家)が平康になります。逆に日月歳の関係が変わったら、百穀は実らず、政治は昏迷して明らかにならず、畯民は用いられず、家は不寧となります。庶民は星によって象徴されます。風を好む星も雨を好む星もあります(箕星は風を好み、畢星は雨を好みます)。日月の運行の変化によって冬と夏ができます(日月の運行は季節によって異なる法則があります)。月が星に従うことによって、風雨が生まれます(月が箕星を通れば風が増え、畢星に近づけば雨が増えます。政治や教化が失敗したら民の欲に天道が従うようになり、月が箕星や畢星に近づくため、風雨の秩序が乱れます)。
五福とは、一は寿、二は富、三は康寧(平安)、四は好徳(徳を好むこと。徳を行うこと)、五は考終命(「考」は「老」の意味。天寿を全うすること)です。
六極とは、一は凶短折(「凶」は歯が生え換わる前に死ぬこと。「短」は冠礼前に死ぬこと。「折」は結婚前に死ぬこと)、二は疾(病)、三は憂(憂患・憂慮)、四は貧、五は悪(邪悪。または醜いこと)、六は弱(惰弱)です。」
箕子の話を聞いて納得した武王は、箕子を臣下とみなさず、朝鮮に封じました。