西漢時代 高帝(十四) 彭越の死 前196年(2)

今回は西漢高帝十一年の続きです。
 
[] 『漢書帝紀』と『資治通鑑』からです。
高帝が陳豨を討伐する際、梁からも兵を集めました。しかし梁王彭越は病と称して参加せず、将に兵を与えて邯鄲に赴かせました。
高帝は怒って彭越を譴責します。
彭越は恐れて謝罪に行こうとしましたが、彭越の将扈輒がこう言いました「王(彭越)は最初から陛下に会いに行かず、譴責されてから会いに行こうとしています。行ったら必ず捕えられます。逆に兵を起こして反しましょう。」
彭越は進言を退けました。
ちょうどその頃、梁の太僕が罪を得て漢に逃走しました。太僕は彭越と扈輒が謀反を企んでいると密告します。
高祖は突然人を送って彭越を襲いました。彭越は全く気付かなかったため、捕えられて洛陽に連行されます。
 
有司(官吏)が審問して「反形(謀反の形跡)がそろっています(『資治通鑑』胡三省注によると謀反を勧めた扈輒を誅殺しなかったことを指すようです)。法に基づいて論じてください(裁いてください)」と報告しました。
高帝は彭越の死罪を免じて庶人に落とし、蜀の青衣に遷すことにしました。
 
彭越が洛陽を出て西の鄭に至った時、長安から東に向かっていた呂后に遇いました。
彭越は泣いて無罪を訴え、故地である昌邑に遷りたいと請います。
呂后はこれを許可し、彭越と共に東に向かって洛陽に入りました。
しかし呂后は高帝にこう言いました「彭王(彭越)は壮士なので、蜀に遷したら憂いを残すことになります。いっそ殺してしまうべきです。そのために妾(私)が謹んで彼と共に来ました。」
更に呂后は彭越の舎人に「彭越が再び謀反を企んでいる」と上書させました。
廷尉王恬が彭越を族滅するように上奏し、高帝はこれに同意します。
 
三月、彭越は三族と共に誅されました。彭越の首は洛陽に曝され、その下に「死体を回収しようとした者は全て捕える」という詔が掲げられました。
 
史記高祖本紀』は「夏に梁王彭越が謀反して廃され、蜀に遷したもののまた反そうとしたため、三族が皆殺しにされた」としています。
また、『史記漢興以来諸侯王年表』は前年(高帝十年)に梁王が「来朝して反し、誅される」と書いています。
 
梁の大夫欒布が使者として斉を訪ねていました。
資治通鑑』胡三省注によると欒氏は晋の卿欒氏の子孫です。
 
欒布は帰還すると彭越の頭の下で奏事(報告)し、彭越を祀ってから哭しました。
それを聞いた官吏が欒布を捕えて報告します。
高帝は欒布を召すと罵って煮殺そうとしました。
官吏が欒布を熱湯に投げ入れようとした時、欒布が顧みて言いました「一言だけ言って死なせてください。」
高帝が問いました「何を言いたいのだ?」
欒布が言いました「上(陛下)が彭城で困窮し、滎陽と成皋の間で破れた時、項王が西に向かうことができなかったのは、まさに彭王が梁地におり、漢と合従して楚を苦しめたからです。あの時、王(彭越)が一顧して楚と一緒になっていたら漢が破れていました。漢と一緒になったから楚が破れたのです。垓下の会戦においては、彭王がいなかったら項氏は亡びませんでした。天下が既に定まり、彭王は剖符によって封を受け、万世に伝えようと思っていました。今回、陛下は一度だけ梁から兵を徴集しようとしましたが、彭王は病のため行きませんでした。その結果、陛下は謀反を疑い、反形(謀反の形跡)がそろっていないのに、苛小(些細)な案件で誅滅してしまいました。臣は功臣が皆自分の身に危険を感じているのではないかと恐れます。今、彭王は既に死にました。臣は生きているより死んだ方がましです(生不如死)。どうぞ烹に処してください。」
高帝は欒布の罪を赦して都尉に任命しました。
 
[] 『史記高祖本紀』『漢書帝紀』『資治通鑑』からです。
高帝が詔を発しました「梁王、淮陽王に立てられる者を選べ。」
燕王綰、相国何等が皇子恢を梁王に、劉友を淮陽王に推しました。
 
丙午(下述します)、高帝が皇子劉恢を梁王に立てました。
丙寅(三月十一日)、皇子劉友を淮陽王に立てました。
東郡を廃して梁国を拡大し、潁川郡を廃して淮陽国を拡大しました。
 
丙午について、『資治通鑑』胡三省注から解説します。
漢書諸侯王表』は「三月丙午」としていますが、三月は丙辰朔なので丙午がありません。『史記漢興以来諸侯王年表』は「二月丙午」としていますが、『資治通鑑』は「三月に彭越三族を滅ぼした」としているので、劉恢が梁王に立ったのは三月以降になるはずです。恐らく「三月」は正しく、「丙午」が誤りです。
 
[] 『漢書帝紀』『資治通鑑』からです。
夏四月、高帝が洛陽から長安に還りました。
 
[] 『漢書帝紀』からです、
高帝が関中に遷った豊人の徭役を終生免除しました。
豊は高帝の故郷で、近畿に新豊(地名)を造って豊人を移住させていました(前年参照)
 
 
 
次回に続きます。