第十六回 鮑叔が管仲を薦め、曹劌が斉を敗る(後編)

*今回は『東周列国志』第十六回後編です。
 
魯荘公は斉が管仲を相に任命したと聞き、激怒して言いました「施伯の言に従わなかったことを後悔している。孺子に騙されるとは!」
荘公は車馬を選んで兵を動員し、乾時の仇に報いる準備をします。
これを知った斉桓公管仲に問いました「孤は位を継いだばかりなので、頻繁に干戈(攻撃)を受けたいとは思わない。先に魯を攻撃するのは如何だろう?」
管仲が言いました「軍政がまだ定まっていないので、民を使うことができません。」
しかし桓公は諫言を聞かず、鮑叔牙を将に任命し、軍を率いて長勺に直進させました。
 
魯荘公が施伯に問いました「斉がわしを侮ること甚だしい。どうやって防ぐべきだ?」
施伯が答えました「ある者を推薦しましょう。彼なら斉に対抗できます。」
荘公がそれは誰かと聞くと、施伯が言いました「姓は曹、名は劌といい、東平の郷に隠れ住んで今まで出仕したことがありません。しかし彼は本物の将相の才を持っています。」
荘公は施伯に命じて曹劌を招かせました。
 
施伯に会った曹劌は笑って言いました「肉を食べる者(貴族)に策がないなので、藿(植物の名)を食べる者(庶民。貧民)と謀りに来たのですか?」
施伯が言いました「藿を食べる者でも謀ができるのなら、行動して肉を食べればよい。」
二人は一緒に荘公に会いに行きました。
 
荘公が問いました「斉とどうやって戦うつもりだ?」
曹劌が答えました「兵事とは機に臨んで勝を制するものです。預言できることではありません。臣に一乗の車を貸していただければ、隊列の間で計を謀りましょう。」
荘公は喜んで自分の車に乗せ、長勺に向かいました。
 
鮑叔牙は魯侯が兵を率いてきたと聞き、堅い陣を築いて待ちました。
魯荘公も陣を構えて対峙します。
鮑叔牙は乾時で勝ったばかりだったため魯を軽んじています。戦鼓を敲いて兵を進めさせ、先に敵陣を落とした者には重賞を与えると約束しました。
 
魯荘公は斉の鼓声が地を震わせるのを聞いて、自軍の戦鼓も敲こうとしました。しかし曹劌が止めて言いました「斉師は勢いが盛んなので静かに待つべきです。」
軍中に「騒ぐ者は斬る」という伝令が行き届きます。
斉軍が魯陣に突撃しましたが、鉄桶のように堅い陣を突き崩すことができず、やむなく後退しました。
 
暫くして斉の陣から再び鼓声が鳴り響きます。しかし魯軍はやはり静まり返ったままだったため、斉軍は後退しました。
鮑叔牙が言いました「魯は戦を恐れているのだ。もう一度戦鼓を敲けば必ず敗走する。」
斉が新たに鼓声をとどろかせると、曹劌が荘公に言いました「斉を破るのはこの時です。速く戦鼓を敲いてください。」
魯が始めて戦鼓を敲きました。斉は既に三回目の鼓声です。斉兵は以前の二回で魯兵が動かなかったため、戦う気がないと思って油断していました。ところがひとたび魯の戦鼓が鳴り響くと、突如魯兵が殺到しました。刀が斬りつけ、矢が飛来し、鳴り響く疾雷に耳を覆う暇もないくらいの勢いで斉兵を倒していきます。斉軍は大混乱に陥り、大敗壊走しました。
荘公が追撃しようとすると曹劌が言いました「いけません。臣が確認します。」
曹劌は車を降りて斉が陣を構えていた場所を確認し、周囲を一回り見てから、再び車に乗って遠くを眺めました。久しくしてやっと「追撃しても問題ありません」と言います。
荘公は車を駆けさせて三十余里追撃してから兵を還しました。無数の輜重・甲兵(武器)を奪っての凱旋となりました。
 
この後の事はどうなるか、続きは次回です。