第二十八回 里克が孤主を弑殺し、穆公が晋を平定する(後編)

*『東周列国志』第二十八回後編です。
 
桓公が晋の乱を知って諸侯を集めようとしました。自ら高梁の地に至ります。
その頃には秦が既に兵を出しており、周恵王も大夫の王子党に兵を率いさせて晋に送りました。
これらの情報を聞いた斉桓公は、公孫隰朋を派遣して周・秦の軍と合流させ、協力して夷吾を晋国に入れました。
呂飴甥も屈城から晋都に移ります。
桓公は斉に帰還しました。
 
里克と丕鄭父は国舅・狐突を招いて群臣を主持させ、群臣を率いて晋の国境で夷吾を迎えました。夷吾は法駕(国君の車)に乗って絳都に入り、位に即きます。これを恵公といいます。
即位した年を元年としました。晋恵公元年は周襄王二年に当たります。
しかし国人はかねてから重耳の賢を慕っていたため、重耳を失って夷吾が即位したことに失望しました。
 
恵公が即位し、子の圉が世子に立てられました。狐突と虢射が上大夫に、呂飴甥と郤芮が中大夫に、屠岸夷が下大夫になります。その他の諸臣は以前のままです。
 
恵公は梁繇靡を王子党に従わせて周に送りました。また、韓簡を隰朋に従わせて斉に送りました。それぞれに擁立の恩を謝します。
秦の公孫枝は河西五城の地を要求するため、暫く晋国に留まりました。
ところが恵公は土地が惜しくり、群臣を集めて協議しました。虢射が目で呂飴甥に合図すると、呂飴甥が進み出て言いました「主公が秦に賄賂を贈ったのは、国に入る前だったからです。当時、晋国は主公の国ではありませんでした。今、主公は既に国に入ったので、晋国は主公の国です。秦に譲らなくても秦は主公に対してどうすることもできないでしょう。」
里克が言いました「主公は国を得たばかりです。強鄰に対して信を失ってはなりません。土地を譲るべきです。」
郤芮が言いました「五城を与えるのは晋の半分を与えるのと同じです。秦が兵力を集めたとしても、我が国から五城を取ることはできないでしょう。しかもあの地は先君が百戦経営してやっと得たのです。棄ててはなりません。」
里克が言いました「先君の地と知っていながらなぜ譲ることに同意したのですか。同意したのに譲らなかったら、秦を怒らせることになります。そもそも先君は曲沃に国を立てましたが、その地はわずかなものでした。自ら政治に勤めて強くなったので、小国を併合して国を大きくすることができたのです。主公が政治を修めて隣国との関係を善くすれば、五城がなくなったことを心配する必要はありません。」
郤芮が大喝して言いました「里克の言は秦に対するためではありません。自分が汾陽の田百万を欲しているのに、主公が与えないことを心配して秦を例にしているのです!」
丕鄭父が腕で里克を突いたため、里克はあきらめて諫言を止めました。
恵公が言いました「譲らなければ信を失い、譲れば自分を弱くする。一二の城を贈るのはどうだ?」
呂飴甥が言いました「一二の城を贈っても全ての信を守ったことにはならず、逆に秦との争いを招くことになります。辞するのなら全て辞するべきです。」
納得した恵公は呂飴甥に秦へ送る書を準備させました。その内容はこうです「以前、夷吾は河西五城を譲ると約束しました。今、幸いにも国に入って社稷を守ることができたので、夷吾は秦君の賜(恩恵)を思い、約束を実行しようとしました。ところが大臣が皆、反対してこう言いました『その地は先君の地です。国君が亡命して外に居る間に、なぜ勝手に他人と約束したのですか。』寡人は大臣と争いましたが、同意が得られませんでした。秦君には割譲の時を暫く延ばしていただきたいです。寡人がこれを忘れることはありません。」
恵公が問いました「寡人のために秦に謝すことができる者はいるか?」
丕鄭父が願い出たため、恵公は同意しました。
 
恵公が帰国を求めた時、丕鄭父にも負葵の田七十万を贈ると約束しましたが、秦にも城を譲らないのに、里・丕の二人に土地を譲るはずがありません。丕鄭父は口には出しませんでしたが心中で怨んでいます。秦への使者を買って出たのは、秦に不満を訴えるためでした。
丕鄭父は公孫枝に従って秦に入ると、穆公に会って国書を献上しました。読み終わった穆公は案(机)を叩いて激怒し、こう言いました「寡人は夷吾が国君として相応しくないと知っていた。果たして、本当に賊に騙されることになった!」
穆公が丕鄭父を斬ろうとすると、公孫枝が言いました「これは鄭父の罪ではありません。怒りを鎮めてください。」
穆公は怒りが収まらないまま丕鄭父に問いました「誰が夷吾に寡人を騙させた?寡人はその者を得て自ら殺してやりたい!」
丕鄭父が言いました「左右の者を去らせてください。臣に話があります。」
穆公は少し機嫌を直して左右の者を簾下に下がらせ、丕鄭父に揖礼してから話を聞きました。
丕鄭父が言いました「晋の諸大夫は皆、秦君の恩を感じており、土地を譲ることにも納得しています。しかし呂飴甥と郤芮の二人が妨害しました。秦君は重幣を贈って晋を聘問し、好言で二人を招いてください。二人は必ず秦に来るので、それを機に殺します。その上で秦君が重耳を帰国させたら、臣と里克が夷吾を駆逐して内応し、代々秦君に仕えるようにします。如何でしょうか?」
穆公が言いました「これは妙計だ。重耳を帰らせるのは寡人の本心でもある。」
こうして大夫・冷至が丕鄭父と共に晋に行って聘問しました。呂飴甥と郤芮を誘い出して殺すことが目的です。
 
呂・郤の性命はどうなるか、続きは次回です。